デザインデータは無償で渡すべき?デザインの著作権とデータ譲渡の対策について考えてみた

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どうも。グラフィックデザイナーのケンスです。

苦労して作ったデザインにOKをもらい、入稿して印刷物として納品し、ひと仕事終えたわ〜と安心したところにクライアントからひと言。

「チラシありがとね〜。あ、あとデザインデータもちょうだい

これ、デザイナーあるあるのひとつだと思うのですが結構な頻度で言われます。グラフィックデザイナーの場合はIllustratorのデータ、aiデータがほしいと言われることが多いです。Webデザイナーならpsdデータですかね。

「別のツールに展開するのでデザインデータをください」とか「Webで使いたいのでデザインデータをください」とか、このようなオーダーですね。

制作物の納品まで済んでから言われるならまだしも、「途中まで作ってもらったチラシ、キャンセルになったわ〜。あ、一応イラレデータちょうだい」というなかなかエグいケースもありますね。

キャンセルになったのになぜデータが必要?絶対流用するやつやん。

とはいえ、クライアントとの関係性や所属している会社の方針など断れないことも多々あります。というかそういう場合の方が多いのでは。

そんなときのために、せめてもの対策をまとめてみました。どうしてもデザインデータを渡さないといけない、流用されそうな気配を感じる、といったクライアントに対して活用してみてください。

デザインデータは無償で渡すものではない

まず前提として「デザインデータは無条件で譲渡するものではない」ということを理解しておくべきだと思います。

クライアントから「チラシをつくってほしい」と依頼された場合、最終的な納品物は「チラシという印刷物」であり、その途中の成果物は納品の対象ではありません。

印刷過程で断裁した紙の切れ端を「紙代に含まれているので」といって納品することはありません。料理でいえば、注文した品を作る際に出た食材の余りを一緒に添える、なんてことはないでしょう。

デザインデータについても同じこと。あくまでデータはチラシをつくるための中間成果物なので、納品する対象ではないのです。

次に著作権の問題があります。クライアント側は「デザイン料を払っているんだからデザインの著作権もこちらのもの」と考えていることが多いですが、これは間違い。なぜなら、デザイン料を払っていてもデザインの著作権は制作者側であるデザイナーにあるからです。

つまりデザインの持ち主はクライアントではなくデザイナーということ。クライアントはデザインの使用許可を得ているだけ、ということです。ですので「データもタダでちょうだい」というわけにはいかないんですね。

データを渡す場合はデザイン料とは別に、データ譲渡の費用を請求し著作権を買い取ってもらうのが正しい方法です。

デザインデータを渡すことはビジネスチャンス損失

デザインデータ譲渡の契約を結ばずに、無償でデータを渡すとどうなるのか。クライアントはそりゃ喜んでくれます。「喜んでくれたから、よかった」と安心する……べきではありません。

というのも、クライアントはもらったデザインデータからパンフレットを作ったり、ポスターや看板を作ったり、Webサイトのビジュアルを作ったりと、さまざまなツールに流用することができます。しかも無料で。

もともとは「チラシをつくる」という依頼で費用もその分しかもらっていないのに、他のツールをタダで作られてしまうわけです。本来ならパンフレットやポスター、Webサイト制作などの新たな依頼を獲得するチャンスがあったのに、これを失うのは大きなビジネスチャンスの損失です。

また、こちらの知らないところで流用されるので、思わぬ改変が加えられて意図しないデザインになってしまうことも。クライアントはデザインのプロではないので、デザインの品質が下がることがしばしばあります。

データを無償で渡すことは相手は喜んでくれますが、こちらは大きな損失になることをしっかり理解しておきましょう。

このような損失の可能性を考えるとデザインデータの譲渡は無償ではなく、然るべき対価で買い取ってもらうべきなのです。

どうしてもデータを渡さないといけないときの対処法

デザインデータの重要性はわかっていても、どうしても渡さないといけないときってあるんですよね。クライアントとの力関係や所属している会社の指示などで断れないときとか。

そんなときにせめてもの対策としてできることをまとめてみました。デザインデータをそのまま渡すのではなく、少し手を加えることで流用しづらいデータにするイメージです。

若干セコいというかコスいというか嫌がらせ的なところはありますが、まあ仕方ないでしょう。タダでくれって言う方が問題あるし。

ちなみにデザインデータはIllustratorのデータで想定しています。

文字のアウトライン化

これは基本中の基本。文字はすべてアウトライン化します。これで文字がオブジェクトになり文字として編集できなくなるので効果あり。

線もアウトライン化

文字のアウトライン化は業務上よくやるような作業なのでお馴染みだと思うのですが、もう一歩踏み込んで「線」もアウトライン化しちゃいます。これで線がオブジェクトになるので線としての編集ができなくなります。

レイヤーの統合

レイヤーをひとつにまとめてしまいます。オブジェクトの選択などレイヤーに頼っている人にとっては大きなダメージかと。レイヤーをあまり使わない人には効果が薄いかもしれません。ただPhotoshopの場合、レイヤーの統合は効果絶大です。

グループ全解除

オブジェクトのグループをすべて解除します。細かなパーツの集まったオブジェクトが多数使われているようなデータだと、オブジェクトの選択だけでも苦労することになります。

文字をアウトラインかけたあとにグループ解除すると文字もバラバラになるのでさらに苦労します。

画像の埋め込み

使用している画像はすべて埋め込みます。画像のみを流用するときにひと手間かかることになります。さらに画像サイズを原寸にして埋め込むと、そのサイズ以上では使いづらくなるのでおすすめです。

PDFにして渡す

Illustratorのデータではなく、PDFに変換したものを渡します。PDF/X-1aやX-4にしておけば、印刷用としては十分なデータなので不足はないと言い張ることができます。

デザインのプロとしてしっかり説明することが大切

上記のような対策をしてデータを渡すと、扱いに慣れていないクライアントなら「別のツールを作りたいのでやっぱりお願いできますか」と頼んでくることが多いです。まあこれが本来あるべき関係性なんですけどね。

ただ、この問題はクライアントが悪いと言い切れないような気もします。デザインに詳しくないクライアントが「デザイナーに著作権があるので無償譲渡はできない」ということを知っている可能性は低いでしょう。悪気はなく、純粋にデータは貰えるものだと思っている人がいるのも事実です。

本当の意味での対策は、このような著作権の存在や権利の譲渡についてきちんと理解し、デザインのプロの立場から十分な説明を行い理解してもらう努力をすることだと思います。

「データの譲渡はできないこと」「どうしても譲渡が必要なら有償であること」などを伝えておくことですね。その際に費用も提示できるとさらにいいです。

事前に伝えておくと、「タダじゃない」という意思表示になるのであとで揉めることになりにくいですし、「有料ならいいや」という具合に諦めてくれることもあります。

とにかくクライアントにしっかり説明し、理解してもらうことが大切です。これも仕事の一環ですね。それでもゴネるクライアントにはゴリゴリの流用しづらいデータを渡してあげましょう(笑)。

では、良きデザインライフを!

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